高コレステロール血症の患者様へ

1.「家族性高コレステロール血症」ってどんな病気?

家族性高コレステロール血症は、生まれつき血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が異常に多い疾患です。血液中のLDLコレステロールは、肝臓の細胞表面にあるLDL受容体という受け皿によって肝臓に取り込まれますが、このLDL受容体に関わる遺伝子に異常がある場合に、家族性高コレステロール血症を発症します。私達の遺伝子はそれぞれ二対ありますが、父親、母親からそれぞれ一対ずつ受け取っています。このLDL受容体に関わる遺伝子のうち、どちらか一対にだけ異常がある場合を『ヘテロ接合体』、両方ともに異常がある場合を『ホモ接合体』といいます。

健常人の場合、血液中のLDLコレステロール値はせいぜい160mg/dL程度までですが、ヘテロ型家族性高コレステロール血症では高くなり、未治療時のLDLコレステロール値が180mg/dLを超えると注意が必要です。更にホモ型家族性高コレステロール血症においては非常に高値となります。

LDLコレステロール値が異常に高くなると、動脈硬化を起こしやすくなります。ヘテロ型では、健常人の平均より10歳程度若くから、心筋梗塞等の命に関わる病気を発症しやすくなります。更にホモ型の場合、中には10歳代から心筋梗塞を起こすこともあります。このため、早期から適切な診断、治療を行うことが重要です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるの?

ヘテロ型ではおよそ200~300人に1人、ホモ型ではおよそ100万人に1人の患者さんがいると考えられています。日本においても、特にヘテロ型は多くの患者さんがいると考えられますが、正確に診断、治療されているのはごく一部(1%程度)となっているのが現状です。

 

3. 家族性高コレステロール血症はどのように診断されますか?

ヘテロ型の家族性高コレステロール血症は、以下の3項目のうち、2項目以上該当する場合に診断されます。

  1. 高LDL-C血症(未治療時のLDL-C180,g/dl以上)
  2. 腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
  3. 家族性高コレステロール血症 あるいは 早発性(男性55歳未満、女性65歳未満)の冠動脈疾患(心筋梗塞など)の家族歴(2親等いないの血族)

(日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版)

◎ご自身のLDLコレステロール値が180mg/dL以上と高くて、更に2親等以内の血族(父、母、祖父母など)が若くして心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を発症した場合

◎ご自身のLDLコレステロール値が180mg/dL以上と高くて、腱黄色腫などの特徴的な所見(下図参照)がある場合

には家族性高コレステロール血症の可能性があります。

LDLコレステロール値が250mg/dLを超える場合該当項目が1項目だけであったとしても、家族性高コレステロール血症が強く疑われます。

4. 家族性高コレステロール血症の治療法について

<現在の治療法>

以下のような治療を行うことにより、心筋梗塞などの命に関わる動脈硬化性疾患を予防するのが治療目標です。

  1. 生活習慣の改善
    まずは食事療法(魚介類や野菜の多い食事)や運動療法により、体重の適正化を行います。コレステロールの摂取基準は一般には撤廃されましたが、家族性高コレステロール血症の患者さんでは引き続きコレステロールを多く含む食品を摂取しすぎないようにすることは大切です。また喫煙は動脈硬化を引き起こす大きな原因となるため、禁煙は非常に重要です。
  2. HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)をはじめとする内服治療
    生活習慣の是正は非常に重要です。しかし家族性高コレステロール血症では遺伝的な要因もあるため、それだけではLDLコレステロール値が下がりきらないことが多く、スタチン、エゼチミブ、プロブコール、レジンなどの内服薬を用います。『LDLコレステロール値100mg/dL以下あるいは未治療時の半分の値』 を目標として治療します。妊娠を検討する場合はスタチンを内服することができないため、別の薬剤を使用することもあります。FHホモ接合体に対しては、2016年からMTTP阻害剤が上市されました。一定程度のLDL-C低下効果が期待できますが、副作用として脂肪肝、肝障害、脂肪性下痢などがあり、FHヘテロ接合体では適応がありません。
  3. PCSK9(プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)をターゲットとした阻害薬
    2016年薬事承認され、日本でも使用可能となった薬剤で、2(~4)週間おきに皮下注射を行う治療薬です。内服薬のみではLDLコレステロール値を下げきれかった場合に、大きな追加のLDLコレステロール低下効果がある薬剤です。PCSK9とLDL受容体の結合を阻害することで、LDL受容体の分解を抑え、血中のLDLコレステロールの肝細胞内への取り込みを促進させます。当科でも多くの患者さんが、LDL-C管理目標値を達成できるようになっています。
    重症ヘテロ型ないしホモ型家族性高コレステロール血症では、これらの治療によってもLDLコレステロール値の低下が不十分な場合があります。その際には以下の治療が考慮されます。
  4. LDLアフェレーシス
    血液を透析回路に対外循環させ、LDLコレステロールを取り除いた後、再び体内に戻す治療法です。
  5. 生体肝移植、脳死肝移植
    これまでに、2例の報告があります。

<大阪大学で開発中の新しい治療法:重症家族性高コレステロール血症に対する同種幹細胞移植療法治療法の開発について>

重症ヘテロ型やホモ型家族性高コレステロール血症では、従来治療としてLDLアフェレーシスや肝移植等が行われてきました。一方でこれらの治療は、患者さんへの身体的、精神的負担の大きい側面があります。そこで我々の研究室では、

『同種脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)を用いた細胞移植療法』

という新しい治療法の開発を行っています。

同種脂肪組織由来多系統前駆細胞の移植療法 についての詳細はこちら

家族性高コレステロール血症についての詳細は、日本動脈硬化学会ホームページ等もご参照ください。

5. 治療に関するご相談窓口

かかりつけ医、主治医にご相談の上、必要に応じて大阪大学医学部附属病院循環器内科脂質外来(西田、小関)の外来をご予約ください。